音楽は理科実験ではない

 というわけで新宿ロフト放火事件に戦慄しているSongです。最近はゴブサタだけどしょっちゅう行ったライヴハウスだしねえ。ボヤですんで本当に良かったね。あそこで火事になったら絶対逃げられません。狭い地下フロア、細い通路しかないのにギュウ詰めで。放火した女44歳無職は「ロッカーに荷物を入れてたら出されて腹が立った」だと。火事になったら自分も死亡確定なのにな。
 そうでなくても最近、音楽関連で気の晴れない事件が多いや。あたしゃまったく納得がいかないよ、ヒダカトオルmonobright加入。解散や脱退や活動休止といった凶報ではないものの「モヤッとする」という感想が双方の少なからぬファンから洩れている。「モヤッとする」というのは今日び流行りの言い回しなのかい。そんな霧か煙に巻かれたような言い方せずにはっきり言えばよいのに。納得いかない、と。
 ヒダカトオルBEAT CRUSADERSというバンドの中心人物だった人。今年9月に解散した。おっさんのくせにヌケのいパワーロックをやるという趣向で(ヒダカ氏42歳)なかなかの人気者だった。私もCDを持っている。けっこう好きだった。いっぽうmonobrightは若手新進バンドで、メジャー活動2〜3年、エキセントリックで元気の良いロックをやり、すでになかなかの個性と人気を確立している。私はもう「こういうのはお腹いっぱい」だが、個性的で悪くないんじゃないかと思っている。
 しかーし!一緒になるとなれば話はまったく別である。
 ヒダカさんてばさー、ビークル解散のちょっと前からGOING UNDER GROUNDのプロデュースをやりはじめてさ。それで出てきたゴーイングの新曲が、なんつーか…「スケールのちっちゃいビークル」だったんだよな。そりゃプロデューサーが同じなら似たような曲になるのは当たり前だけどさあ。昔からシカゴだろうとセリーヌだろうとチャカ・カーンだろうとデヴィッド・フォスターがプロデュースすれば似たような曲になっていたようにな。しかしなあ…。あたしゃどっちのバンドも好きだが、世にビークルはふたついらないのである。あーあ。と思っていたら次はモノブラなんだ。しかも正メンバーとして入っちゃうんだ。あーあ…。モノブラを応援してきたファンの心中、心よりお察し申し上げる。
 興味ない人にはわかんないかもしれないけどさ。こういう音楽にどっぷりハマっちゃってるファンは、バンド同士の微細な違いを追求し、個性として愛でて、それを動機付けにCD買ったりライヴに赴いたり応援したりしているわけだ。そういうファンの気持ちをどうするつもりなのかね。今回の加入沙汰で。
 例えてみればオモチャで遊ぶ小さな女の子のようなものだ。「リカちゃん人形だいすき!でも、クマさんのぬいぐるみもだいすき!どっちも同じぐらいだいすき!」という子がいたとする。ではこのお嬢ちゃんに顔はリカちゃんで胴体はクマという人形を与えたらどうなるか。2倍喜んでくれるのか?…誰でも答えはわかる。女の子はギャン泣きするだろう。だってそれはもうクマさんでもリカちゃんでもない、気味の悪いキメラだ。なのに…「これで2倍可愛がってもらえるだろう」と考える人間が、いるんだなあ。
 最近の音楽業界ではこういうのが実は多い。「コラボ」ってやつだ。今回の沙汰に「うー納得いかねー納得いかねー」と唸りながらパチッとテレビつけたら「スペースシャワーTV」。riddim saunterが出ていた。これまた私の気に入っているバンドのひとつ。
カジヒデキさんとコラボしました!」嬉々としてのたまっている。そして合奏場面が流れた、のだが…。ものの見事にぶちこわしになっていたw カジヒデキの良さもriddimの良さも。昔から歌唱力は少々おそまつだったけれどアレンジや着想のセンスのよさで評価を得ていたカジヒデキ。個性が強いがウキウキと明るいバンドサウンドを邪魔しない、軽やかなヴォーカルのriddim。おそまつなばかりか年輪を経て変なクセまでついたカジの歌が、riddimの演奏の軽やかさをぶちこわしていた…。
 「一緒にやったら面白いんじゃないかと思って」。「コラボ」をやるミュージシャンの常套句だ。そりゃ演るほうは面白いだろう。マンネリ打破で刺激になって。しかし聴くほうも面白いとは限らない!むしろ面白くない場合が最近多い!「個性の違う者同士で、化学反応が起こるのを期待した」。これも最近よく聞く。音楽は理科の実験じゃない!化学反応の結果とんでもない実験失敗品ができてくることもあろうに。どうもユーザーはそういった「試作品」を押し付けられているような気がする。「うまくいかなかったからリリースやめた」って話を聞かないもん。
 一応は客商売なんだからさあ。コラボをした!楽しかった!刺激になった!さて、お客さんも同じように楽しんでくれるかな?と、僅かなりとも立ち止まって考えて…いるのかな?それともこういったファンの反発も、ヒダカさんにとっては織り込み済…
なのかな?
 まあいいや。良くなければ聴かないだけ、CD買ったりライヴ行ったりしないだけのことだ。「あーあ人生の愉楽をひとつ失くしちゃったよ。もうちょっと楽しんでいたかったんだけどねー」と無聊をかこちつつ。