松茸や松任谷

 この三連休は松茸ばかり食べていた。松茸ぜめ。松茸煉獄。
 会社で持って帰らされたのだ。聞いておどろけトルコ産。そんな国でも松茸が生産されているのだ。地球の裏側から運んで、香りも味もあったもんじゃねえだろと思って焼いてみたら、これが意外にも濃厚な旨味。しかしあまりに多すぎた。中サイズのレジ袋ほどのビニールぱんぱん、ぎゅうづめ。松茸とはたった一本でカゴ型容器にちんまり盛られているから松茸なのだ。こんなに大量だとなにか別の物に見える。正直不気味だ。
 持ち帰ったその日に焼き松茸。翌日の昼食にも焼き松茸。まったく減らない。日曜日、友人に会うのでおすそわけに持っていく。友人も親子二人暮しだから、多すぎても持て余すだろう。やはりビニールの中身は減らない。本日、松茸ごはんにトライ。レシピの1.5倍量の松茸をぶち込んで三合炊いた。炊飯器からもうもうと立ちのぼる松茸の香気。炊き上がるとこんもりと松茸が。でも、ごはんとマゼマゼすると意外と松茸含有量は減るものだ。そしてビニールにはまだ松茸が残っている。どうしよう。


 そしてこの三連休は松任谷由実ばかり聴いていた。ユーミンぜめ。サーフ煉獄スキー煉獄。
 土曜日に下北沢の中古屋で買ったのだ。ここのところなんとなく「ユーミンをちゃんと聴きたいな」という欲求が高まっていて。全盛期のリアルタイムでは「ミーハーだ」と見向きもしなかったくせに。あのころ大学生で、下北をウロウロしていたころの中古店「DORAMA」は今もまだあって、「DA・DI・DA」「ダイアモンドダストが消えぬまに」「LOVE WARS」3枚合計¥980。
 やっぱりいいな。音づくりで冒険的なこともしているし、きっちり作り込んであるし、歌詞に物語性があって聴いてて楽しいし、少なくとも昨今の凡百手抜き大衆歌よりはずっといい。のみならず、あんなにマス受けの活動をしていたというのに、意外と荒井由実時代の「夢見る少女シンガーソングライター」の部分を大事に残していることがわかった。胸が熱くなった。
 さっそくi-Podにブチこんで外でも聴く。すると、あらふしぎ。不景気でネオンもくすむ新宿の街が、たちまちバブルに浮かれる20年前、キンキラキンの新宿に変身。見るものすべてが鮮やかだった、上京したてのころの新宿が、目の前に戻ってくるんだもんな。音楽ってふしぎ。そして人間ってふしぎ。視覚と聴覚と記憶が複雑につながっているらしい。


 あのころ、「ホリデイはアカプルコ」というフレーズや、常夏の海でダイビングしながらクリスマスにさあ乾杯なんて歌詞が、ひたすらまぶしかった。まだまだ夢物語だった、遠い海外へバカンスに出かけるなんて。でも日本がバブルでお金をたっぷり握るようになって、みんなその夢物語に向かって走り出した。現実になってしまった。いや、みんなで現実にした。
 そして20年後。飛行機に乗ってトルコから松茸が届く、そんなミラクルさえ現実になったのに、街の看板ははひどくくすんで、沈み込んでいる。