悶絶!地獄梅干

 土用ですね!うなぎもいいけど梅干もね。今日は6月に漬け込んだ梅の土用干しをした。昨年来、7月の3連休は「土用干し連休」となっている。
 かねがねSongは憤っていた。お店で売ってる梅干とイカの塩辛は、なんでこんなにまずいのか?
 なんかさー。ケミカルな味するじゃん。においも。これじゃ梅やイカの風味ぶち壊し!ってぐらい、おかしな風味ついてんじゃん?どれもこれも。私は味オンチで、ラーメンが「無化調!」など売り物にしてもちーっともありがたみがわからない人間だ。調味料こってりブチ込んだスナック菓子やインスタントラーメンもだ〜い好き。そんな人間が何を言っても説得力ゼロだが、でも我慢できないケミカル味ってあるじゃん、やっぱ。香港でもそうなんだわ。私、甜品屋に目がないくせに「大良八記」だけはまたいで通るし、許留山でも亀ゼリーだけは頼まない。あーのまがい物を覆い隠そうとするケミカルテイストだけは許せん。
 しかも我慢ならんのは、どんなに高い品でも、「産地直送!」「地元名産!」などという代物でも、やっぱりまずいということだ。塩辛なんてさ、じゃー函館の市場の売店で買えばうまいのが手に入るんじゃないか、とか思うじゃん?…まずいんだなあこれが。てめえ糀に何まぜてんだよゴルァ的な。梅干もそう。田舎のおばあちゃんがやってるような小商店で、店先に「自家製梅干あります」とか張り紙出して売ってるやつ。さすがにこれなら大丈夫かな、と思って買ってみて、まずかったときの…哀しさよ。どうしてこうなっちゃうんだろうね。
 それでも塩辛には救世主がいて、狂気の塩分17%、「一度にたくさん食べないで下さい」という注意書き付の「桃屋のいかの塩辛」。これだけは食える。うまいと思う。確かに死ぬほどしょっぱい。ほんの一切れでごはん一膳に十分である。救世主は甘い顔ではやってこないのだ。すなわち三木のり平は悪魔の顔で降りてきた神へとアテレコをする「依り代」なのだった。
 が、梅干はどうする。去年ついに決心した。自分で作ろう、と。
 毎年梅酒を漬けていることは前の日記で書いた。近所に、うち捨てられてジャングル状態の梅林があって、5月末にかならず降る、たたきつけるような大雨で、デカい実がバラバラと落ちる。それを拾い集めて漬けていた。が、昨年の豊作を前に「一部を梅干にまわそう」と決心。初めて漬けてみたのだった。
 丁寧に洗って一晩水につけ、アクと、もぐりこんでいる虫さんを出す。(当たり前だが無農薬!)そして爪楊枝でヘタをほじくり出し、キッチンペーパーで一粒一粒よく水分を拭く。ヘタの穴に入っている水滴もクリクリして拭く。塩は梅の重量の20%分を用意する。「は!か!た!の!しお♪」じゃなくても良いのだが、いかにもダミ声絶叫でCMをしそうなワイルドな粗塩を買ってくる。これをまず半量、梅にグリグリとすり込む。乾いたもの同士では馴染まないので、少し焼酎を混ぜて湿らせて。そしてビニール袋を敷いた四角いプラ保存ケースに梅をならべ、あいまに残り半量の塩を敷き詰めていく。まっ白な塩に埋もれた梅は、雪中のようでそれはそれは美しい。全部ならべ終わり、塩で表面も覆われたところで、ビニールを閉じて上から重石をする。うちの重石は庭の砂利をレジ袋で二重にくるんだものである。
 するとびっくり。数日後には塩は消え失せ、梅はどぶぶぶぶーんとした液体に浸かっているのである。これが「梅酢」だ。上がれば梅干は成功同然といわれる梅酢だが、いや成功も何も、これだけ塩をぶち込んで重しをすれば浸透圧で汁でもなんでも外に出てくるだろって話である。この段階で梅酢を興味本位でなめてはいけない。たいした味ではないばかりかお腹をこわす。
 2週間ほどしたらシソ投入。生の赤ジソの葉っぱは、塩でしんなりさせてグイグイもむと、黒紫色のアクがジュブジュブと出る。それを絞りきり、上述の「梅酢」の中に入れる。と、これまたびっくり、梅酢はあざやかな血の色に染まるのだ。なにかもう、リトマス試験紙のようなものが入っているに違いないという、先ほどのアクの色とのギャップ。と、ともに、梅とシソの合体で実に爽快な香りを放つ。
 で、梅雨が明けて土用になるのを待って、容器から出してザルに並べ、日に干す。3日間。初日は夜いったん取り込んで梅酢に戻し、2日目はそのまま夜も放置せよというがよくわからない。なんでなんだ。
 土用干し終了の数週間後。いよいよ、食ってみる。
 皮が厚く硬い。もともと梅酒漬ける時期に拾い集める梅なので、まだ青く硬いのだ。漬けてもやわらかくはなりませんよ。でも皮の下は、どろりとゼリー状になった果肉が、しかもシソだけであざやかに赤く、まるで滴る獣の鮮血のように赤く染まっている。そして、お味は・・・


ん!?


!!
!!!$#@?★※!!¥&?〆♂§◎£▽・・・
ギャー!
すっぺーーーー!!
しょっぺーーーーー!!!!

 悶絶した。強烈な塩気とすっぱさ。多分まるごと一個食べたら高血圧で死ぬ。実際なんだか脳の血管あたりの様子がおかしい。
当たり前である。塩分20%。桃屋のいかの塩辛よりさらに高濃度なのだ。
 しかもこの梅干やたらと粒がデカい。通販の「紀州南高梅干高級大粒」なんてメじゃないぐらいデカい。要するに青梅の段階で雨に打たれて、重力に逆らいきれずに落ちてきたヤツらなのである。重くてデカいから地面に落ちたのであって。というわけで一粒でどんぶりめし10杯ぐらいないと始末できないような、とんでもない代物が出来上がったのである。が…
 もうやみつき(笑
 やっぱりうまいわ。その後、時がたつにつれてしょっぱさは引っ込み、すっぱさが前に出てくるようになってきたんだけど、「しょっぱい。すっぱい。梅の香り!シソの香り!」ただそれだけで構成された潔い味だ。あと、究極のクエン酸なので(笑)食べていると夏は夏バテ知らず、冬は風邪知らずだよん。健康食品である。食べ過ぎると死ぬ健康食品(笑)
 市販の梅干は塩分8%〜12%ぐらいだ。でも家で漬けるには、そんな塩分では梅酢も上がらないしカビも生えちゃうんだって。じゃー市販品はどうしてるんだよ…というと、まあ、そういうわけですな。梅酢の代わりに「梅酢じゃない何か」に漬け込み、「カビを防ぐための何か」をブチ込んでいるわけだ。まずいわけだよ。
 あーなんか「美味しんぼ」みたいになってきた。でも自家製梅干オススメだ。減塩なんてしゃらくさいことあんまり考えちゃダメだよ。古来、塩は最良の保存料なのだから。庭に梅の木がなくても、近所にほったらかしの梅林がなくても(笑)、まー5月末からスーパーでちゃんと梅は販売するし、皆さんも漬けてみてはいかがでしょうか。