なんで留学するの?

 昨今の世界経済危機のニュースに隠れて、報道が下火になっちゃったけど、やっぱ看過できないわ。留学手続代行会社「GATEWAY21」がつぶれた件。渡航費用や現地学校の授業料、ホームステイ先への支払い費用など、客から一切合財預かったまま会社がドロンしちゃったってやつ。いや、「ドロン」じゃないのか。社長がちゃんと出てきて説明会をしたのか。でも預かった費用の返還はむずかしそうだって。
 かわいそう。客の中には「会社辞めて今秋から1年間留学するつもりで全額納めちゃった」とか…ああ気の毒に。ひどい会社だね!
 …っていうか、ん?飛行機、ステイ費用、授業料…全部まとめて手配してたのか、この会社。それって旅行代理店のパックツアーとかわりないような…っていうかパックツアーそのものか。今日びウサン臭い旅行代理店は危ないよん。すーぐ潰れるから。私も出張の飛行機、ちょっと前まではYahoo!トラベルで比較して安いところを見つけて手配してたけど、最近は航空会社のサイトで直で予約している。マイレージ病に感染してからこのかた、全日空orキャセイしか乗らんようになって、どっちも代理店通したところで千円ぐらいしか安くならんのだ。それで万一、代金つかんで逃げられたらたまらんがや。まあ、そうは言いつつ、お宿は代理店通してるけどな…JHCかアップルワールドかHotelClub.com。潰れんといてな、この3社(笑
 それよりなにより、これ、留学なんだよな。勉強しに行くんだよな、遊びに行くんじゃなくて。それなのに足から寝床から入学の手配まで、会社ひとつに全部任せちゃうのか。現地についたらその日から、その土地の言葉で、ひとりで何でもやらなければならないのに…。
 お金戻ってこないお客さんは本当に気の毒だ。しかも会社辞めて人生変えて留学しようとしていた人は。 が…そもそもだ。なんで留学するの?


 もとの日記で繰り返し書いたとおり、私は留学も海外勤務もしたことがない。特に留学は考えたこともありませんな。8年勤めた会社をやめて中国語やろうと思ったときも、「留学」という選択肢はなかった。ほら、いかにもじゃん。「OLが会社を辞めて留学」なんて。もーそれは「コイツ逃げたな」と思われるだけでものすごーくみっともないじゃん。それだけはナシだなと思っていた。
 今もアッチ行って中国語で話をしたり(香港で北京語、だけどな!)、コッチでなにかの折で中国人と話をしたりするとき、たいてい「留学したんですか?それとも中国でお勤めを?」と聞かれる。まあ、留学というのは斯様にポピュラーな行為なのだろう。
 でも中国留学は絶対いやじゃー!!!経験者から体験談を聞くだに恐ろしい。かつて中国留学はホームステイというのがNGで、留学生は全員招待所(寮ですね)に暮らさなければならなかったのだが、誰から聞いても「これなら豚箱のほうがマシだろ」という話しか出てこなかった。好きこのんで日本の豊かでキレイな生活を手放すこともないだろう。いまはずいぶん緩和されたようでホームステイも一般的になったらしいが、中国で人ん家なんて住みたくないよ…。
 でもこれは中国だけの特殊事情で、おおかたの海外留学は風光明媚な自然や街の中で、広々としたおうちと優しいホストファミリーに囲まれてホームステイ、が一般的なのでしょう?いいよな。
 そのかわり猛烈お金がかかるらしい。GATEWAY21のお客さんが、1年単位の留学で百数十万円納めたという報道を見て、「いったい留学っていくらかかるんじゃ」と思い調べたのだが、諸説あれど総合すると大学4年間で1200万〜2000万、一説によれば3000万とか。ほええええ。そりゃ守屋事務次官も業者にたかりたくなるわな、娘の米国留学費用。っつーか…そんなお金の出せる親がいる人はすごいな。自分で貯める人もすごい。ド根性だ。
 私は中国語を教わったのは大学4年間と、目白の寺子屋っぽい専門学校で、その総費用を計算すると…大学がたしか入学金18万で授業料年間30万。仕送りは月6万ぐらいだった気がするなあ。だから430万ちょっとと…あと目白の寺子屋は授業料が3ヶ月5万7千円だったよ。都合1年半ほど通ったから、テキスト代などもろもろ含めて30〜40万かな。…大学、安っ。年30万で何が教えられるんだろう…。実際たいしたことは教わらなかった気がするが、それにしても安かったんだなあ!(でもドイツなんかは、大学の授業料タダなんだって)
 数倍ものお金をかけて、外国語だけを学びに行けるのか…。いいなあ。ぜいたくだ。
 外国語は日本でもじゅうぶん学べる。っていうか、ある程度のレベル以上なら日本で学んだほうがいいんじゃないか。たとえば「煮え湯を飲まされる」「転ばぬ先の杖」「酉の市」などを、外国語で正確に翻訳するには?あんまり、外国に行って正確に教えてくれる先生がいるとは思えないんだなあ。でも日本には、いるよ。
 言葉は意思伝達の道具である。外国語は異国の人とのコミュニケーションのために学ぶ。そして私は日本人。日本で得たあれこれを伝えるには、まず伝えようとする日本語がどういう意味か、わかってる先生に付かなきゃならないような気がするんだけどなあ。
 発音は現地で学んだほうが綺麗になる、というのも疑問だ。私は大学で、学び始めの1ヶ月、徹底的に発音をやらされた。日本人の先生に。舌の動かし方、唇のかたち、口蓋やノドの開け具合まで、徹底的な分析のもとに細かく細かく指導された。しつこかった…。おかげさまで「留学したんですか?それとも中国でお勤めを?」というわけだ。教えてくれた先生が全員北京政府ずっぱまり、中共マンセーまっかっかだったのも良かったね。捲舌音ガッチリの北京式発音を仕込まれた。フェイ・ウォン嬢が喋るようなやつだね。現地でネイティヴが喋るのをのほほーんと聞くだけよりは、口の動かし方や息づかいを理論的に教わるほうが有用だと思うんだけど。
 それにさぁ…。だいたい誰に聞いても同じなんだけど、向こうに行っても日本人留学生どうしかたまっちゃって、「外国人の中で暮らす」って感じには、あんまりならないらしいじゃん。異国に行っても日本人の話し相手がいるんなら、いいよな。でも何の意味があるのだろう。
 異国という逃げ場のない場所で、日本人どうし狭〜いコミュニティを作ってかたまる。うわぁ。私がいちばん苦手とする状況だ。あー、やだやだ、やっぱ留学絶対いやだ。もし「おまえ留学に行け。行かなきゃ日本に生きる場所はない」と言われたら、私はその場で、言った相手をタコ殴りして傷害罪で豚箱に入る。


 そこが留学のたったひとつ、私が感じる効用でもある。すなわち、似たような境遇・財力のお友達ができる、ということ。
 お金持ちの子弟がこぞって海外留学する理由もそのへんにあるんだろうな。現地人の友達じゃなく、今後の社交上有用そうな、日本人のお友達をつくる、という。「ロサンゼルス留学時代のお友達どうし集まって、今度ホームパーティーをしまーす」みたいな。人脈づくり。
 あー、そこだけはうらやましいよな。いいな。ちぇっ。と、最近ひじょうにお友達が少なくヒキコモリ気味の私は思うのだった。