編む

 とうとう編み上がった、アラン模様のセーター。去年の冬から編み始めて、うしろ身ごろと前身ごろ半分まで編んだところであえなくシーズン終了。9月に再開して1ヵ月半、ついに完成だ。縄編みを多用していたから猛烈に手間がかかったのだよ。
 モコモコに厚いので寒くならないと着られないし、レシピどおりに作ったはずなのに異様に袖が長いし、よく見ると前身ごろとうしろ身ごろで編み目の粗さも違う。でも、そこそこ見られるものが出来たのではないか。袖は折り返して着れば良い感じだ。少なくとも「オカンアート」のそしりは免れるのではないかと思う。自分で着るんだし。
 休む間もなく今度はマフラーにとりかかる。これは単純なリブ編みなので作業も簡単。ほかにも今冬は帽子にも靴下にもトライしてみたいし、編みたいものがいっぱいだ。
 要するにヒマなのだ。ヒマだから、やりたいことをやっている。
 お店に客が来ないんだよねえ。バーゲンやってもまるでダメ。学割制度も始めてみたが、これがまあ輪をかけてノー・リアクション。
 改めて気づいたが、こんなちんけな店でも景気の動向をもろにかぶるのだ。今冬、雪解けのころまで記録的に売り上げ不振だった。5月あたりから活気づき、夏のあいだ忙しすぎて死にかけだ。9月にはいってもしばらくはよかったが、月の真ん中でパタッと動きが止まった。
 寒いあいだは燃料費の高騰がもろに家計を直撃していた。暖かくなってそれが一服し、またサブプライム騒ぎも一段落して円相場が安値にふれ始め、輸出中心の日本の産業は夏のあいだそこそこ安定していた。暑い夏は消費も刺激した。日本ではカネがよく回った。ところが、とどまるところのない燃料高にいよいよ産業界がギブアップし始めた。そして…。思えばあそこでパタッと動きが止まったのが、今回の予兆だったのかなあ。恐慌の。


 ともあれ、こうなってしまっては動きようがない。うちの店のお客さんは圧倒的に30代以上が多い。給与、家計支出、金融状況などの動きと切り離せないのだ。それにしても学生はさらに深刻なんだなあ。使えるお金がまったくないのね。もとから世の消費トレンドと切り離されているのだ。隔世の感がある。クルマに夜遊び、高いスーツ、そういうものをみせびらかしていた学生がうらやまれた、我々の学生時代とは。
 こういうときこそ元気を出して、顧客となりそうな人々と交流を広げたり啓蒙活動をしたり、業界にコネをつなごうとしたり、積極的にやるのが経営者としてあるべき姿なのだが、やる気が出ない…。
 疲れちゃったのである。夏があまりに忙しすぎた。遅い夏休みをいただいてもバチはあたらないはず。もちろん昼は勤めに出ているし、店もベーシックな作業はこなしている。けど、プラスアルファをやる気力はない。
 まあこういうときもある。肝心なのはやめてしまわないことで、がんばりすぎて逆にポッキリ折れて投げ出すのこそ、客への背信行為だし。ローテンションだけどいつもそこにいる。これが肝要かと。
 まして誰もが富をふっとばしてしまったこんな世の中だ。じっと編み物でもしてやりすごすしかなくね?そのうちまた、動かずにはいられないときが来るだろう。