バスを降りられない

 あーやらかしちゃったねー草なぎ君。
 ファンが可哀想だと思うが、さらに可哀想なのはSMAPの他メンバーのファン。スマスマは4人での続行が決まったらしいけど、これでグループとしての活動がとーってもやりにくーくなったのは確か。各メンバーのファンにとって実演観覧の機会はSMAPのコンサートしかないのだ。「これでもうしばらくコンサートがないわ〜」と、昼の会社で嘆く局等の声がきこえた。ちなみに捕まった現場は会社から歩いて10分ぐらいのところだ。
 私はどっちかっていうと、脱いで暴れたら逆にハクがつくようなヒトしか応援しないからなあ。っつーか同じ犯罪を現行犯で目撃してるからなあ。ロッキンジャパンフェスの峯田君。ちん毛が夏の風に揺れてそよいでいたなあ…。だから「イメージが裏切られた」というファンの気持ちはわからないが、ただ地デジの宣伝活動に関しては「ざまーみろ!」の心持ちでいっぱいだ。
 断っておくが草薙くんを貶(けな)す意図はまったくない。ただ地デジのゴリ押し導入にムカムカきていただけだ。あんなの通信業界、家電業界とつるんだ国家の暴力、ファッショに他ならないのに、優しそうでクリーンそうで良い人そうな草ナギ君と年寄りを出してその意図をくるみ隠して、不況でスポットの入らないCMタイムに洪水のごとく流して…本当のファシズムは優しい笑顔でやって来ると昔だれかが言っていたが、本当のことなんだ、とまざまざと見せ付けられて戦慄してたところだもん。草なぎ君本人は今回の廉恥破りを「おぼえなくやった」と供述しているらしいが、地デジ推進キャラクターの身を認識しながらやったのなら「あっぱれお見事!漢(おとこ)の中の漢!」と最大の賛辞を贈りたい。なかなか上がらない地デジ普及率にイラついていた総務大臣はたいそうなおかんむりのようだが、知っててわざとやったのなら凄いよ。テロリストの素質ありだ。100%クリーンな人間なんていない。ありもしない幻想をゴリ押しの政策に利用しようとした罰だよ。ざまーみろだ。

 ところで峯田君は全裸になって真夏のひたち海浜公園で美しいパンクロックを歌ったが、草なぎ君は全裸になって深夜の檜町公園で訳のわからないことを大声でわめいたそうで、それだけでも「随分ストレスたまってんだなあ」とわかるわけだが、やっぱりあれだけ長い間トップアイドルをやり続けるということは、アイドル本人にとっても負担なことなのだと知る。
 SMAPは何年のあいだトップアイドルをやり続けているのだろう。私が大阪城ホールにコンサートを見に行ったのは、たしか1994年。えっ!もう15年前。少なくとも15年はトップに居つづけているという事だ。あまりに長すぎないか?同じころ香港でトップを張っていたアイドル「四大天王」が、今や音楽レーベルの経営者になってたりアヤシい雰囲気の性格俳優になってたりすることを考えれば、やはり尋常じゃなく長い。
 アイドルの寿命なんてもともとはかないものである。あれほどまでにトップスターとして世を騒がせた松田聖子だって、がっつり活動しまくったのは1980年のデビューから85年の結婚までの5年ほどだし、同期の田原俊彦、1年あとの近藤真彦、さらに1年あとの中森明菜だってそんなもんだ。ピンクレディーのブームは1976〜78年のわずか3年間だったし、キャンディーズも「年下の男の子」でブレイクしてから解散までやはり3年ほど。時代下っておニャン子クラブも3年であっさり幕を閉じたし、光GENJIも1987年にデビューして90〜91年ごろにはもう影が薄くなっていた。
 なぜSMAPだけが?いやSMAPに限らず、最近トップスターの寿命がみょうに長いのは何故なんだ?オリコンチャートを見れば安室奈美恵キンキキッズがいまだに1位に君臨し、これじゃ10年前と変わらんやないかい!だし、テレビドラマで主役を張るメンツも5年前、10年前とかわりばえしない。音楽業界だってそうだよな。いまだにトップがミスチルなんて。彼らももうすでに17年ほどやっているのである。ここ3〜4年でデビューして、名実ともにトップを張れる人物がいるか?まるで見当たらないのである。
 彼らは何故スターダムから降りずにいられるのだろう?いや、「降りさせてもらえない」のである。人気スターを「既得権益」とし、その飼い主である大手事務所が権益を手放そうとしないのだ。
 新しくて素晴らしいタレントやミュージシャンが生まれ出たとしても、既存権力の厚い壁に阻まれて世に出る機会すらまともに与えてもらえない。そして視聴者は十年一律のタレントの顔を見るだけなのである。こんな夢のない業界!それで「テレビがつまらなくなった」「CDが売れなくなった」と嘆いても自業自得なのである。
 音楽やタレント育成を「ビジネス」ととらえるのは結構だ。ビジネスだから年々成長を目指さなければならないのも。しかしビジネスならば、寡占・独占はルール違反だ。社会科の教科書にかいてなかったかい?ある業界内で寡占・独占がすすめば、消費者はより高い代金で、より質の悪いサービスや商品しか享受できなくなる。消費者が不利益をこうむるのだ。
 それでもスター本人は長いあいだ良い思いができて喜ばしいのだろうと思っていたら、そうでもないということがはからずも草なぎ君のちんちんとともに露見してしまった。
 やっぱりスターの座というのは、いつかは降りなければいけないバスのようなものなのかも。次の停留所が来たら静かに下りて、次のスターに座席を譲るものだ。いつまでも乗ったまま降りない、いや「降りさせない」というのはどうにも無理のある話なのである。無理を通すもんだから、こんなふうに窓を蹴破ってでも飛び降りようとする者が出るのだ。彼は哀れな犠牲者なのかもしれないねえ。スターははかなく消えていくからこそ、一瞬の輝きがまぶしいのに。

 引き合いついでに思い出してみるが、峯田君はあのとき結局どうなったんだっけ?たしかステージのあと地元の警察に呼ばれて話を聞かれて、後日書類送検されてそれでおしまい、だったような。あれ?ほとんど同じ犯罪なのに…草なぎ君は逮捕に拘留に家宅捜索と、みょうに大騒ぎになっているような気が。なんでだろ?夜中に大声出して騒いだからかな?捕まるときに暴れたからかな?でも一方の峯田君なんか数万の観衆の前でちんぴょろすぽーんだよ、「公然わいせつ」の犯罪としての悪質性はこっちが上じゃね?あれー?なんでかなー?
 まあいいや、そうだ、そうだよ。地デジ推進キャラクターの後釜にぴったりじゃん、こっちも歌に映画にCMに大活躍中のスターだ。後釜はぜひ、峯田和伸にやってもらいましょうよ。