お茶の間マイコー

 ありゃー。マイケル・ジャクソン死んじゃったよ。あたしゃどこで知ったといって、会社の朝礼だよ。ふだんはカチンコチンの堅物部長がとつぜん「今日はマイケルの命日になった」とか言い出すんだもん。
 私がマイコーの曲で好きなのは…だんとつで「Rock With You」だなあ。あのBメロ→サビへたたみかけるような旋律はまさに神。間奏のキーボードのメロもカワイイし。この曲聴くと大阪に住んでいた頃を思い出す。FM802でしょっちゅうかかってたんだ。「FUNKY 802」は今も変わらぬキャッチフレーズだと思うが、当時はその名のとおりソウル・ファンク・R&Bばっかかけ倒す放送局で、局のディレクターさんもソウル&ファンクに異常にうるさい人が多かった。「おまえ洋楽宣伝マンの癖にこんなことも知らんのか!」とよく叱り飛ばされたもの。
 その流れでソウルミュージックが好きになって、ていうか無理矢理好きにさせられて、ジャクソン5も気に入ってよく聴いてたなあ。夕暮れ時にはジャクソン5かスタイリスティックスのベスト盤をしょっちゅうかけて聴く。今でも。って書くと熱心なモータウン・ファンからは「スタイリスティックスみたいに似非なディスコソウルと一緒にすんなヴォケ」と顰蹙を買いそうだが、どっちも好きなんだい。古めかしく大仰なアレンジと天使なハイトーン・ヴォイスは、傾き褪せはじめた陽射しによく映える。
 少年マイコーの声は天使の声。とよく言われるが、楽曲もどれも素晴らしいのがこれまた。いままで数多のミュージシャンにカヴァーされているが、カヴァー版までいちいち素晴らしいのがジャクソン5のすごいところ。「I'll Be There」のマライア・キャリー、「Never Can Say Goodbye」のコミュナーズ、「I Want You Back」のFolderなんてのもありましたな(三浦大知君のいたやつ)。どれも良い。きっと楽曲に普遍的な良さがあるんでしょうね。カヴァーする側も情熱傾けてやってるのがわかるし。少なくともこのあいだ聞いた、10年前に営業と制作宣伝と歌い手とで力を合わせて泣いて血を吐くホトトギスの思いで出して売ったSugar Soulの「Garden」を糞みたいに上っ面撫でてカヴァーしてる若い女歌手よりはずっとずっとましだ。
 …って、そんなマニアックでヘソ曲がりな追悼ブログを書く人はあまりいないわけで、やっぱマイコーといえば「スリラー」のPVのシーンが浮かぶのがノーマルな反応でしょ。若い人にはピンと来ないかもしれないが、松田聖子黒柳徹子タケちゃんマンサザエさんサントリーCANビールのペンギンと同列の「お茶の間のアイドル」だったのだ。洋楽をお茶の間へと持ち込んだ一大功労者だよ。当時「オレたちひょうきん族」でも「とんねるずのみなさんのおかげです」でも盛んにマイコーのパロディをやっていたし、そういえばパロディの本家(!?)アル・ヤンコビックのPVさえもふつーにTVで流れていた記憶があるが、パロるには「ご本家をみんな知っている」という必要条件があるわけで、ちっちゃい子供からお年寄りまでみんな「スリラー」のゾンビ踊りを知ってたってことだ。そんな洋楽スターが今いるか?マイコーは真に偉大だったってことだ。
 しかし死んだって言われてもいまいちピンとこないな、正直。テレビの中の人ってみんな寓話の登場人物みたいなもんで、たとえば「ウルトラマンが死んだ」って言われるのと同じなような気がする。いかりや長介忌野清志郎のときも似たような感じがしたんだけどさ。死んだ死んだといわれつつ、また奇矯な姿でひょっこり記者会見に出てきそうな。清志郎も死んだと言われつつ、今年もどっかの夏フェスにひょっこりヘッドライナーとして名前が載りそうな気がしてならないしさ。「実感がわかない」とはまた微妙に違う。生き死にをも軽く飛び越える強烈なパーソナリティーの持ち主、っていうか。そのうち東スポの一面にデカデカと「マイケル生きていた」とか書かれそうな…ってそれは違うか。
 そういえば昨日、ふと田原俊彦の「NINJIN娘」が聴きたくなって、Youtubeで「トシちゃん9曲メドレー」ってのを見てたんだよね。そしたら「シャワーな気分」でトシちゃん、ムーンウォークをビシッと披露しててさ。ああ、たしか82年か83年、「スリラー」のころ出た曲だったんだなあ、って。あのころムーンウォークを踊れりゃ超人気者。中学の教室、机と机のあいだのせまい通路で華麗なムーンウォークを踊ってみせてたN君、今ごろどうしてるのかなあ。