アワー・ディケイド

 今週NHK-BSが「銀河鉄道999」を一週間ぶっ通しで放送したけど良かったわぁ。忙しいのについ見入ってしまいました。子供のころ本放送も見ていたがイマイチ楽しめなかった。この年になって、いろいろなこと(大半がヲタ知識)を知って、改めて見て素晴らしさに気づいた。でまたその素晴らしい作品に花を添える主題歌がさあ。テレビ版オープニング・エンディングの佐々木功の歌もイイんだけど、映画版のゴダイゴがまた、ねえ。最高じゃないか。
 誰にでも出身大学に「尊敬すべき大先輩」がいると思うけど、私の尊敬すべき先輩はロシア科の故・米原万里さんと英米科のタケカワユキヒデ、この二人をおいていない。いまやでっぷりテラテラ、貫禄たっぷりのオジサマになったタケカワ氏だが、やっぱりBSの「999」特番にバリバリ登場して映画主題歌も披露していた。
 ゴダイゴって凄いんだよ。演奏技術はドッキリするぐらい高いし曲もいちいち素晴らしい。(ちょっと「この人たちTOTOよっぽど気に入ってたんだなあ」と思うことはあるけど。)どんな場所でも生演奏で完璧なライヴをやっちゃう。Youtubeに30年ぐらい前の中国・天津公演のライヴ映像がいっぱいあがってるけど衝撃的だ。私が「なんなのこの国!なんにもないじゃない!まるで牢獄だわ!」とブチギレながら旅行した頃からさらにさかのぼること10年。きっとあまりにあんまりな暗黒帝国であったに違いない中国で、今のどんなバンドよりも上手く、エキサイティングな演奏をしてしまうゴダイゴ。しかもタケカワユキヒデはニッコニコの笑顔だ!
 んでもってさすが英米科の人らしく英語詞の曲がたくさんある。「ビューティフル・ネーム」「ガンダーラ」など日英両バージョンある曲も多い。が、しかし!この人たち英語詞は外注だったんだね。奈良橋陽子さんという方がたくさん書いておられる。このへんが逆に、さすが外大一かしこい英米の人!って気もする。いまの馬鹿マスコミ&馬鹿宣伝マンなら「外大英米科に通う高い英語力を生かして、自分で作詞!」などと惹き文句にしたくて、むりやり本人に作らせたことにするのだろうが。
 じゃあプロの英語遣いで作詞家の奈良橋さんがどんな詞をつけていたかというと、私はごく近年になって「モンキー・マジック」の英詞の内容を知って、…ずっこけた。だって西遊記のあらすじそのまんまを唄ってるだけなんだもん!「お山の中で石から生まれたよ!ふしぎな暴れ猿が、親切なお坊さんと出会って西方を目指す旅に出たよ!」…それだけだ。よく考えれば「銀河鉄道999」の英詞サビだってそうだ。「銀河鉄道999は、君を永遠の空の旅へと連れて行く。」それだけだ。アニメの内容を一言であらわしているだけじゃないかっ。
 でもそこがキモだったのではないか?と考察する。
 彼らは同時代の人気バンドの中でも「こども向け」の仕事が際立って多かった。国際児童年テーマソングで「みんなのうた」でも流れた「ビューティフル・ネーム」。アニメ映画主題歌「銀河鉄道999」。さらに日曜夜8時放送のファミリードラマ「西遊記」の主題歌も2期にわたって手がけた。こどもはもちろん英語詞の意味がわからない。なんかかっこいいことを唄ってるんだろうなあ。なんて唄ってるのかなあ?まわりのかしこそうな大人に訊く。学校の先生か、インテリなパパさんか、大学生のイトコのお兄ちゃんか。そのときこどもに意味を説明できるような、納得させられるような内容を、彼らはあえて唄っていたのだ!
 これは大事なことだ。たとえば時代が下って香取慎吾西遊記の主題歌、MONKEY MAJIKの「AROUND THE WORLD」も前半が英語詞なのだが、これ、たとえ訳すことが出来ても、こどもに意味を納得させるのはとっても難しい詞だ。概念が抽象的すぎるのよ。
 そういうことを考えるだにゴダイゴは、ことばの違う人々にもわかる歌を唄おう、大人とこどもの理解の壁をなるべく作らないようにしようと、深く考えながら音楽活動をしていた立派なバンドだわ。やぁーやっぱり真に尊敬すべき外大OBだってば。たとえ8年かかって卒業したとしてもさ。
 私もそうなりたいねえ。ことばの壁を越えて面白い漫画を面白がってもらおう。ヲタと非ヲタの壁、ジャンル違いのヲタどうしの壁をなるべく感じさせないように活動しよう、と思うよ。それでいつの日か見知らぬ大学の後輩に「尊敬すべきヲタOG」と噂されれば最高だねえ。
 そんなゴダイゴだが、「ガンダーラ」がヒットした絶頂期に「アワー・ディケイド」というアルバムをつくっている。ほぼ全編英語詞でとっても地味な内容、売上げも地味だったらしい。タイトル「僕らの10年」のとおり、過ぎし'70年代を振り返りましょうというコンセプトアルバムだが、唄っている内容が…ガイアナの『人民寺院』事件。アミン大統領の血の粛清。ドル・ショック、ニクソン・ショック。えらく社会派なのである。
 あたしゃこの収録曲「パープル・ポイズン」をきっかけに、初めて『人民寺院』のことを詳しく知ったもんね。911が起こるまでアメリカ史上最悪の、一度に900人以上が犠牲となったカルト教団集団自殺事件。事件の経緯を追うと日本の某狂信集団の惨事へ至る道のりとあまりに似すぎていて、人間って何で過去から学習しない生き物なんだろう?って愕然としたもん。
 それを、お茶の間のテレビでニッコニコの笑顔ふりまきつつ、こども向けのポップ・ソングを唄うゴダイゴが唄っていたのである。
 「世界に一つだけの花」も「夜空ノムコウ」も音楽の教科書にのる時代。それでもなんかうすっぺらい気がしていたのは、ゴダイゴのように「片面では時代を撃ちたい」という気概がないから、かもしれんね。
 いま「アワー・ディケイド」をつくることの出来るバンドが日本にいるだろうか?残念ながら、いない。唄う内容はこんなにたくさんあるのに。2000年からの10年。まあ「911」を唄った人は何人かいたけれど、その後も湾岸戦争SARS禍に新型インフルエンザ、そしてリーマン・ショック。日本経済も日本人の生活もめちゃくちゃになり、労働者が生活保護世帯を「ぜいたくだ」と羨み妬むほどに歪んでしまった世の中。それを、なぜ歌にして発表する人がいないのだろう?
 まあしょうがないわ。期待しないわ。「この人たちなら時代を撃ってくれる」と応援していたバンドが「あきらめないで〜」「君ならできる〜」などと突然うすっぺらいガンバレソングを唄い始めて心底ガッカリさせられたり、そんなのばっかりだもん。
 トップに登りつめた人こそそういう歌を唄うべきだと思うのに、なんだかなあ、唄わせてもらえないのかなあ。しけた世の中。あーつまらん。宇多田ちゃんもそういうのに嫌気がさしちゃったのかなぁ?かしこいお嬢ちゃんだからこそ。
 といいつつゴダイゴの「アワー・ディケイド」、ネットで試聴だけして買ってないんだけどw 曲がねー。シングルのヒット曲群に比べればまあ、イマイチなクオリティなので。ま、そのうち買うよー。それとゴダイゴといえば、小さい頃1年間だけ世田谷区に住んでたことがあって、それが彼らの絶頂期で、うちに「ゴダイゴのファンクラブですか?」という間違い電話がいっぱいかかってきたのよ。なんか1番違いとかだったのかねー。どんな電話番号だったんだろ?当時の「ゴダイゴ・ファンクラブ」の電話番号がわかる方、いらっしゃいませんか?