なんで渋谷のHMVだけ?

 渋谷のHMVがきのう閉店したってなあ。あたしゃHMV、わけても渋谷店は昔からいけ好かなかったが、閉店報道が新聞にもWEBニュースにもテレビにも派手に出るにつけ、むかむかと腹が立ってしかたがない。


なんで渋谷のHMVだけが?


 かつて「渋谷系」とよばれた数多くのミュージシャンやDJらを集結させ何日もかけて派手な「さよならイベント」をやり、惜しまれながらシャッターを閉める店がある一方で、経営者が夜逃げし、飛び降り、首を吊り、ある日突然張り紙一枚で店がなくなり、二度とシャッターの開かぬ悲惨な最期を遂げたレコード店が全国に何軒あると思ってるんだ!!
 豊橋の「ヤ●ト楽器」はマジで経営者が突然失踪したらしい。名古屋金山に本店のあった「G×××VE!」はちゃんと倒産してツタヤに吸収されるだけ後始末をしたからマシかなあ。いいお店だったのになあ、北陸にも何軒もかっこいい支店があって、店長が万引き犯を追っかけてボコって捕まえてて新譜受注商談の席に遅れるという、まさにロックを体現するお店もあったのになあ。北陸といえば「Y蓄」もつぶれたってなあ。クラシック専門店まで擁する老舗中の老舗だったのになあ、と感慨に浸っていたら「いや最期はかなりアレだったよ。従業員には直前まで知らされなかったらしいし」と昔の同業仲間が教えてくれた。いやしかしそれでも大阪の「ワ●ツ堂」よりはましでしょう。たまたま私が大阪へ観光旅行に行って、千日前を歩いていたら張り紙一枚でシャッターの閉まったお店があってなあ。ちょうど前日に破産しました、って書いてあったの。大阪は大月楽器がひと足先に悲惨な倒産劇を演じ、同時期に「ミドー」などパタパタッと逝く店があったんだけど、●ルツもかよ!と悲しくなった。経営陣のひとりが破産数日前に自殺していたというニュースが悲しみに輪をかけた。
 ざっと、私がレコードメーカー時代に営業でまわっていた店を挙げただけでこうなんだからなあ。いまや残っているお店のほうが少ないよ。例外なく末路は悲惨だ。渋谷のHMVみたいに「お葬式」をやってもらえるお店なんて稀有。人間でいえば「行旅死亡人」「無縁仏」ばっかりだ、といえば悲惨さがわかってもらえるかな。
 もちろんそういった店のなかには「わしは屍肉をあさって生き抜いたんねや!」と自分でお店を作って復活した人もいるし、レコードメーカーの人間もミュージシャンもちゃんとみんな生きているわけだし、だめになっちゃったお店の人たちも必ずどこかで元気に暮らしている、と信じたい。だってほら、メーカーの営業で最高にダメ子ちゃんだった私だって、こうやって母と二人、飢え死にしない程度にやってるんだもん。心配はいらないのだ、が…。HMV渋谷みたいに「さようなら!いい思い出を、ありがとう!」などとニコニコ笑ってお別れするのは、どうしても違和感がある。
 だいたいHMV渋谷にしてもさあ。末期はかなりアレな感じだったぞ。あたしゃ8月はDeath忙しいからきっとこれで見納めだなあ、と思いながら先月中旬の夜に行ってみたのさ。入ってすぐ目に飛び込むディスプレイは「恵比寿マスカッツ」だった。…いや、恵比寿マスカッツを貶す意図は毛頭ない。でも…でも…お色気グループじゃないかっ!!それを「元祖シブヤ系の聖地」とか、閉店の日になって持ち上げたって「なに言ってんだ今さら」と冷めた感想しか浮かばない。そもそもだな。「シブヤ系」は渋谷だけで売れたんじゃないぞ!小沢健二コーネリアスラブ・タンバリンズオリジナルラヴカジヒデキサニーデイ・サービスフィッシュマンズも、日本全国、黄色くなった蛍光灯が照らす田舎の駅前のお店で、田舎もんがこぞって買ったからこそあんなに売れたんじゃないかぁっ。そういう過程を無視すんじゃないよ!
 いや同じHMVだって、閉まりぎわの待遇の違いに疑問が残るよ。ずっと行きつけていた銀座と数寄屋橋の支店も閉店した。末期は本当にひどいものだった。まず客がいなくてさあ。がらーーーーーん。それから商品がなくってさ。売れてもぜんぜん補充しなくて、あそこは什器が黒いから商品がないと暗さが余計目立っちゃって、闇夜の砂漠状態だったもんな。窮余の策でジャニーズコーナーつくったり演歌コーナーつくったりしてもかえってちぐはぐでさ。サブちゃんの金ピカ銅像置いたり、そういうのはすぐ近所の山野楽器に任せておけばいいじゃーん!なんでHMVが?ばかみたい、と思ったもん。それでも閉店間際なら「閉店セール」で投売りしてるかな、と銀座店に立ち寄ってみたが、投げ売ろうにも投げ売る物がもともとないのだった。完全に無駄足。
 どうしてこうなっちゃったのかね?
 CDが売れなくなっちゃったからだ。何故売れないかというと、配信や違法ダウンロードに食われたからだ。と、訳知り顔の連中は言うけれど違うって!!買いたくなる曲も、買う気をそそるお店も減っちゃったからだよ!
 あのさあ。90年代、メガヒットの時代。大量消費のくだらない曲ばっかりだったと言う人がいるけど違うぞ。このあいだ洗濯しながらふと広瀬香美の「ゲレンデがとけるほど恋したい。」を口ずさんで(真夏に!)、改めて「よく出来た曲だなあ」と感心したもん。また通勤中にシャ乱Qの「ズルい女」をふと思い出して、「この曲すごいなあ。奇跡みたいに全てがピタリとはまってるなあ」と思ったり。どちらも別に好きでもなんでもなかったけど、メロディ、詞の乗せ方、言葉の選び方、アレンジ、そして自作自演ながら圧倒的な歌唱力、どれも凄すぎる。天才ソングメーカーと精鋭スタッフが総力を結集してつくった、という感じがビンビンする。と売れて当然だ。こんな曲を湯水のように消費していた時代は幸せだったとしかいいようがない。いまのポップソングは貧しすぎる。いまさらアタクシに「会いたい」のひとつ覚え、どれ聞いてもおんなじメロディ、ラップと称する念仏をムニャムニャ唱えて途中を端折る、ああいった曲を聴けとでも?
 それと「買う気をそそるお店」ってどんなんだって話だが、まずは古典名作というものをちゃんと常備しろよ!話はそれからだ。メーカー営業時代に会社の先輩が「なんだこの店は!イーグルスの『ならず者』さえ在庫してないじゃないか。店に言ってやりたいよ、『おまえの店こそ、ならず者だ!』って。」と文句言ってたりしたけど、ダジャレの寒さはともかく、いまこんな会話を交わすレコード店関係者って、いるのかな?と思ったらツタヤがこんどCD売場スペース4割縮小、旧譜在庫ばっさりカットだってさ。逆のことやってどうするの!
 それでも銀座の山野楽器とか下北沢のモナレコードみたいに、いまも「にぎやかに盛り上げてCDを売ろう!」というお店は少数派ながら存在する。マスコミもHMVの葬式ばっかり取り上げてないで、こういうヤル気満々なところを紹介しろよ!銀座の山野は楽しいぞ。スターダスト・レビューの新譜発売日には、大型ディスプレイ什器に店内モニターでのライヴ映像に過去30数枚の旧譜アルバム&映像商品オール面出し平積みで、四方八方からこれでもかこれでもかと、根本要の四角い顔がサラウンドで迫ってくるんだぞ!アルフィーの新譜発売日にも似たような状態になるって聞いた。山野はアルフィーファンの聖地だとか。それでいいじゃん!私たちみたいな(年齢の)大きな女の人が、確実に楽しんでるんだからさあ。